子宮内膜症の症状とは?
早めの治療でリスクを低減!

フェムケア

『楠原ウィメンズクリニック』より不妊症や体外受精を中心に、のべ6万人を診察されてきた楠原院長にご登壇いただき、女性が知っておきたい子宮内膜症のサインについてお話いただきました。

不妊症とも密接なかかわりがある子宮内膜症は、なんと10人に1人の女性が経験すると言われています。早期発見と適切なケアをすればリスクを軽減できますので、不妊治療にかかわる方もそうでない方も、ぜひ知っておいて頂きたい内容です!

登壇者紹介

楠原 浩二
楠原ウィメンズクリニック院長
楠原ウィメンズクリニック院長
楠原 浩二
群馬大学医学部卒業後、東京慈恵会医科大学附属病院の産婦人科に入局。同大学で不妊症の研究と診療に携わる。東京慈恵会医科大学産婦人科の助教授を経て、平成8年に東京都中央区に「楠原ウィメンズクリニック」を開院。不妊症、特に体外受精を中心とする診療を行い、これまでに6万人の不妊患者の診療にあたる。日本産科婦人科学会認定専門医、日本生殖医学会認定専門医の資格を有する。

群馬大学医学部卒業後、東京慈恵会医科大学附属病院の産婦人科に入局。同大学で不妊症の研究と診療に携わる。東京慈恵会医科大学産婦人科の助教授を経て、平成8年に東京都中央区に「楠原ウィメンズクリニック」を開院。不妊症、特に体外受精を中心とする診療を行い、これまでに6万人の不妊患者の診療にあたる。日本産科婦人科学会認定専門医、日本生殖医学会認定専門医の資格を有する。

子宮内膜症とはどんな病気か

不妊症の原因にもなる「子宮内膜症」とは、本来は子宮の中だけにある子宮内膜が、それ以外のところにも増えてしまう病気です。子宮内膜とは卵子を受け入れる畑のような存在です。子宮内膜症は様々な場所に発生し、直腸や卵管、膀胱と子宮の間、卵巣の中に入り込むこともあります。

極端な場合ではチョコレート嚢腫といって、卵巣の中に発育した子宮内膜が月経のような出血を起こします。ちょうどチョコレートを溶かしたような状態で、腫瘍の中に血液がドロっと溜まってしまうのです。

子宮内膜症の主な症状は月経痛

子宮内膜症の症状で1番多いのは月経痛です。10代のときはあまり痛みを感じなかったのに、20代の半ば頃から急に痛みだす、徐々に痛みが強くなっていくなどの特徴があります。人によっては鎮痛剤が必要となるほどです。

また月経量(血液量)が多くなる過多月経も発生します。経血がレバー状になっていたり、貧血がある場合には気を付けてください。性交痛が発生してセックスが困難になり、その影響から不妊に悩む人も珍しくありません。

月経時に下痢をしたり、排便時に痛みが出ることもあります。直腸の周りに内膜症が進行すると、直腸が狭くなり痛みを伴うためです。月経時以外でも腹痛を引き起こし、お腹がなんとなくシクシクしてすっきりしないのが子宮内膜症の特徴です。そして子宮内膜症がある人の50%は不妊症になり、逆に不妊症の20%は子宮内膜症を合併しているというデータがあります。

さらには頭痛、腰痛、不正出血を引き起こすこともあります。子宮内膜症の発症率は非常に高く、全女性の10%かそれ以上と言われています。またある調査では、月経痛の人の70%に子宮内膜症が見つかりました。生理痛が強ければ子宮内膜症を疑うくらいでよいと思います。

診断はベテラン医師を頼るように

子宮内膜症の診断で最も重要なのは問診です。特に年々強くなる生理痛、それから生理の前の腹痛、性交痛の有無は大きなヒントになります。

ただし、一点お伝えしたいのは「生理痛があるからピルを出しましょう」と対処する病院は、医療として失格であることです。受診時にいつ痛みますか?昔と比べてどうですか?生理時以外にも痛みますか?性交痛はありますか?と詳しく問診してくれる医師を頼ってください。

問診の次は触診を行います。膣の奥や直腸と膣の間を触診すると、しこりが見つかり、さらに子宮の一番下の部分を引っ張ると、飛び上がるほど痛むはずです。ちゃんとした医師は、まず触診をして内膜症の有無を確認します。いきなり超音波検査をして内診をしない医師は、信頼しないことをおすすめします。

最後に超音波検査を行います。もしチョコレート嚢腫があれば超音波ですぐ診断できますが、チョコレート膿腫を伴わない骨盤子宮内膜症というものもあります。ここを誤診される例も多いようです。最後に腫瘍マーカーを確認します。腫瘍マーカーが上がるのは、よほど進んだ子宮内膜症と言えます。

子宮内膜症の治療方法

完全に治すのは困難なので、進行を止めるしかありません。軽度の方へはホルモン治療がメインとなります。低用量ピル(LEP内服)と内容的には同じですが、避妊目的と誤解されやすいのでLEP(レップ)と呼ばれています。排卵をストップさせて卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌を抑制することで、内膜症を萎縮させる効果があります。

中度~重症の人には、ジェノゲストという人工黄体ホルモンの投薬をします。これを飲むと排卵がストップし、女性ホルモンのエストロゲンが下がり、結果として内膜症の増殖を直接的に抑制できます。

他にはGnRHアゴニストという点鼻薬があります。脳のホルモン中枢からでる排卵を起こす指令にブレーキかける効果があります。GnRH アンタゴニストという最近認可されたばかりの薬もあり、ホルモン中枢をGnRHアゴニスト以上に抑制して、閉経と同じような環境を作ってくれます。エストロゲンを強く低下させ、その分だけ内膜症も萎縮します。一方で更年期の症状が出たりもするので、長く続けるのは難しい薬でしょう。

薬だけでは対処できず、急を要する場合には手術を行います。どんな場合に手術が必要かというと、チョコレート嚢腫が4~5センチ以上で破裂の恐れがある場合です。もちろん卵巣を全部摘出するわけではなく、チョコレート嚢腫の裏側だけを取り除きます。チョコレート嚢腫はがんになるリスクもありますので、特に40歳以上の人の場合、もしくは腫瘍が大きい場合には手術をおすすめします。

子宮内膜症と不妊の関係性

不妊症患者の約20%は子宮内膜症を合併しています。逆に子宮内膜症の50%は不妊症になると言われています。念のために言い換えると、子宮内膜症があっても50%の人は妊娠できる可能性があるということです。

どうして不妊症になるかというと、内膜症は骨盤とのすき間や、卵管卵巣と子宮の周りに癒着を起こし、機能を低下させるためです。また慢性的な炎症ですので、炎症性物質が卵子や精子にダメージを与えてしまいます。

とはいえ、子宮内膜症だからと落ち込むことはありません。とあるデータでは、不妊症で体外受精した約1,100例の中で、内膜症がある219人とない960人で妊娠率を比べると、内膜症が不妊の原因であった人の割合は、共に45%程度と差がありませんでした。

つまり、子宮内膜症があっても妊娠はできます。子宮内膜症で妊娠した人の約17%は悲しいことに流産していますが、残りの83%は無事に出産しています。切り札である体外受精を用いる手もあります。

子宮内膜症は動脈硬化や卵巣がんにもつながる

子宮内膜症は動脈硬化の原因になることが最近わかりました。子宮内膜症は慢性的な炎症なので、炎症物質が血管の内皮細胞にダメージを与え、最終的には動脈硬化を導きます。子宮内膜症があると脳梗塞のリスクは約2倍、狭心症は1.4倍、一過性の脳虚血は1.9倍程度に高まります。なお、35~55歳までは内膜症があるとリスクが増しますが、55歳ぐらいになると差がなくなります。なぜなら、その年齢になるころには閉経により内膜症がしぼんでいるからです。

内膜症は卵巣がんのリスクにも影響します。ある卵巣がんは調査では、チョコレート嚢腫と診断した人の0.72%に卵巣がんが発見されました。また、チョコレート嚢腫の手術した3.4%の方に卵巣がんが合併していました。特にチョコレート嚢腫が4センチ以上で、年齢が40歳以上の人は、卵巣がんの合併頻度が高まるようです。子宮内膜症を抱える方がとれる対策としては、年に2回程まで検査頻度を高めるか、手術で根本的に取り除いてしまうことです。

お伝えしたいことのまとめ

もし子宮内膜症に特有の症状が出ていれば、早めに「産婦人科の専門医」を受診しましょう。不妊症と診断されるまでに4~5人の医者が必要と言われていますので、なるべく専門性の高い産婦人科医を選んでください。内膜症と診断されたら低用量ビルやジエノゲストを使用し、少なくとも進行させない努力をしましょう。

もし内膜症があると診断されたら、早めに妊活をスタートすることをおすすめします。自然妊娠しなかったら、不妊治療へ舵を切るのも早い方がよいです。大きなチョコレート嚢腫を持つ40歳以上の方は、卵巣がんのリスクになりますので、産婦人科医と継続的にお付き合いしてください。

子宮内膜症は気が重くなる話ばかりで申し訳ありません。若いときは痛みを伴い、結婚する頃になると不妊症を招き、40歳以上にはがん化のリスクにつながるのですから。本当に内膜症は女性のライフサイクルについて回る症状です。だからこそ、うまく付き合っていくってことが大事です。

お悩みへの具体的なアドバイス

Q1. 子宮内膜症と不妊症、どちらの治療を優先させられたら良いでしょうか?

内膜症を治療すれば、その延長線上として妊娠できるわけではありません。まずは妊娠を優先させましょう。一例として、チョコレート嚢腫で手術をした場合、その後に妊娠を期待できるのは20~30%です。また薬物療法をすると多くの場合、排卵がストップします。つまり、治療中は妊娠のチャンスが全くありません。まず赤ちゃんを獲得し、それからホルモン治療をして内膜症の進行を止めるのが理想的な流れです。

Q2. 生理痛と一緒に必ず右のふとももが痛くなり、鎮痛剤が欠かせません。何か症状を軽減する方法ありますか?

実際に診察するまでわかりませんが、骨盤にできる深部内膜症という症状の可能性はあります。直腸の前面に内膜症が広がると生理中に血便になったり、膀胱にできると生理中に血尿になったり、肺に飛び火すると結核がでたりします。これらの症状を移植性内膜症といい、関連性を否定できません。明確にお答えするためには診察が必要です。

Q3. 中学生である娘の生理痛が強く、学校に行くのも辛そうです。早めに受診した方がよいでしょうか?病院選びはどうしたらよいでしょうか?

受診をおすすめします。以前とは違い、最近は10代で内膜症になる人も珍しくありません。10代だと性経験がないので診察しづらいものの、まず問診などで確認していただきたいと思います。病院選びについては、内膜症を診療対象としてホームページに掲げている病院をおすすめします。産婦人科にも専門分野があります。なるべくキャリアを積んだ医師がよいでしょう。

Q4. 子宮内膜症になると、月経時の血液量の色やニオイに特徴が出ますか?

色や粘度に特徴はでません。ただし、量が多く塊として出る場合には内膜症を思わせる症状です。塊が出るかどうかを気にしてみてください。また量が多いと女性は貧血になりますので、機会があれば生理後に貧血でないかを調べてください。

BELTAでは、ライフステージの変化によって生まれる不安や疑問を笑顔に変えられるように、資格を持った専門家やプロフェッショナルが実施したイベントをレポートとしてお届けしています。本日共有した内容が、皆様の参考になれば幸いです。