

訪問看護を通じて見た現実
ネグレクトや虐待、若年出産
問題を抱え批判の声を受けながらも
前に進む女性たちが独立しないために
挑戦を続けたい
INTERVIEW
インタビュー

女性が孤立しない
社会を目指して
助産師が築く
支援の形
女性の一生を支援する
その想いで助産師の道へ
私は、看護師・助産師として総合病院や大学病院で約14年間勤務してきました。
当初は、看護師として働いていましたが、もともと「母性看護」に興味があり、女性を一生を通じて支援したいという想いから助産師の資格を取得しました。
その後、出産を機に夫の会社で事務を手伝っていたのですが、自分の「好き」と経験を活かせる働き方をしたいと思い、38歳の時に訪問看護の会社を立ち上げました。
訪問看護事業を続けるなかで、多様な課題を抱える女性たちに出会う機会が増え「女性を追い詰めてしまう社会の構造自体にも問題があるのではないか」と感じるようになり、こうした女性たちをサポートしたいと思い、NPO法人を立ち上げました。

10代の未受診妊婦を見て
思ったこと
訪問看護を通して、若くして妊娠・出産を経験した方、ネグレクトや虐待の問題を抱える方など、さまざまな女性たちを見てきました。
特に印象に残っているのは、10代の未受診妊婦(妊娠中に妊婦健診を受けずに出産を迎える妊婦のこと)の女の子です。
その子は、陣痛が来てから病院に駆け込み出産をしたのですが、生まれた赤ちゃんに病気があり、彼女本人だけが先に退院となりました。
その後彼女は、誰にも子どもがいることを言わず何事もないかのように成人式に参加していたのです。
私はその姿を見て、なぜ彼女は親や周囲に相談できなかったのか、自分から声を上げられなかったのか…など色々なことを考えました。
その後も、彼女の自宅を訪問した際には、掃除された様子のない湯船に子どもが浸かっていたり、子どもが歯磨きをしていなかったりという状況を目の当たりにしました。
彼女だけでなく、様々な方を支援する中で、早い段階で正しい知識や生活習慣を学べる場があれば、こうはならなかったのかもしれないと感じることが多々あります。
正しい情報発信や
「学びの場」の大切さ
今、NPO法人「きびる」の活動の一つとして、情報発信や性教育など学びの場を設けることを進めています。
背景には、訪問看護で出会ってきた女性たちの存在もありますし、その他にも相談事業で寄せられる声もあります。
たとえば、中学生から「パンツを脱いでいないけど妊娠したかも」「濡れている便座に座ってしまったから妊娠が心配」などの相談があるんです。
もちろん、適切な避妊は大切ですが、情報が曖昧なまま必要以上に恐れてしまうと、愛情表現としての性行為だけではなくハグすらできなくなってしまう、それは本末転倒ですよね。
誤った情報や知識による不安を抱えている人が多いと感じています。
「性教育」というとハードルが高く感じられますが、基本的にはコミュニケーションスキルの学びだと思っていますので、そのあたりを正しく発信していきたいです。

周囲からの
批判の声に対して思うこと
NPO法人を立ち上げたことで、多くの方や社会との繋がりが生まれ、学ぶことが増えました。
一方で、活動が目立つようになると同業者から「助産師会の許可は取ったの?」や「勝手にやっていいの?」という批判や心配の声が寄せられることがあります。
誤情報を発信しているのであればそれは問題だと思いますが、目指しているゴールは一緒のはずで、困っている誰かの役に立つ情報を発信していくことについて、許可を取る必要はないんですよね。
やはり批判的な声をもらうと、活動のしづらさを感じてしまうこともありますが、そうした声を受ける中で思うのは、「問題意識を抱えながらも、しがらみや批判の声の中で一歩を踏み出せない人たちもいるかもしれない」ということです。
そんな人たちをサポートする役割を私たちが担えたらと考えています。
今後は情報発信だけでなく、「本当は動きたいのに動けない」方々が安心して声を上げられるよう、サポート体制を整えていきたいです。

一時的な居場所づくりではなく、
長期的に孤立しない仕組みづくりを
今後は、相談事業で寄せられた声を「見える化」して、社会にアクションを起こしていきたいです。実際にこんな悩みを抱えている人がいるからこそ、正しい情報発信や性教育が必要だと、具体的に示すことが大切だと思います。
また、先日、男子中高大学生100名に話を聞く機会があったのですが、「将来、家族を支えられるのか」「女性を守らなきゃいけないのでは?」というプレッシャーを感じている方が多いことも分かりました。今後はこうした男性向けにも、正しい経済的リテラシーなど安心できる情報発信を行っていきたいですね。
さらに、来春には「きびるの居場所」というオープンスペースが完成予定です。ここでリアルイベントや、悩めるママたちが集まれるような場を提供したいと考えています。BELTAさんとも連携しながら、栄養に関する勉強会なども実施できたら嬉しいです。
これからも、女性たちが一時的ではなく、長く孤立しない仕組みをつくるために、私たちはさまざまな挑戦を続けていきます。
——複雑な背景を抱える女性の力になりたい、その想いを胸に訪問看護からNPO法人の立ち上げまで走り続けてきた野口さん。逆境の中でも、正しい情報を広く届け、孤立する人を少しでも減らすための活動を続ける姿に心を打たれました。
私たちも、一人ひとりの声を拾い上げ、向き合い続けるこの取り組みに注目し応援してまいります。




PROFILE
野口和恵(のぐちかずえ)
1978年生まれ。看護師・助産師として大学病院や総合病院で約10年間勤務したのち、出産を機に退職。主人の会社の手伝いとして事務を行うが、自身の経験を活かしたいという思いから2016年に訪問看護を行う株式会社プラスエヌを設立。小児訪問看護なども行う中で女性や若者が抱える課題感を目の当たりにし、妊娠・出産・育児のサポートを行うNPO法人きびるを設立する。きびるでは、母子に向けた正しい情報発信を軸に様々な団体と連携し活動の幅を広げている。
NPO法人きびる:
https://kibiru.org/
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