
「知らない」で後悔しないように
体外受精の実態とは?
セントマザー産婦人科医院 院長
田中温先生



BELTA
と
不妊治療専門医
田中先生と
対談させていただきました!
これまで長く不妊治療の現場に携わられてきた田中先生。その中でプレコンセプションケアの啓発について感じる課題や、プレコンセプションケアに取り組む上で具体的に自分で始められる行動についてお話ししました。


プレコンセプションケアに対する
専門医の想い
日本の不妊治療
技術と数はトップ
成功率は最低
根幹には「知識不足」


日本の不妊治療
技術と数はトップ 成功率は最低
根幹には「知識不足」
先生はこれまで長く不妊治療の現場に携わられてきたと思います。その中でプレコンセプションケアの啓発について課題に感じることはありますか?
プレコンセプションケア・妊娠に関する知識不足が大きな課題だと感じます。
日本は体外受精の実施数や技術は世界トップレベルでありながら、その成功率は世界で最も低いといわれています。
体外受精の実施数について、厳密には中国が約90万件、日本が約60万件ですが、人口比率で考えると、日本が世界で最も多い実施実績を持っています。
また、多くの症例を扱っているため、技術も世界トップレベルなんです。それでいて、体外受精の成功率が世界で最も低いのは、体外受精の実施年齢が海外と比べて高いことが要因とされています。

日本における体外受精実施の年齢は何歳が多いのでしょうか?
海外では、体外受精を受ける平均年齢が20代後半とされているのに対し、日本では平均40歳といわれています。
年齢と共に妊娠率が低下するので、結果的に体外受精の成功率が低くなる傾向があります。
そして、この背景には「知識不足」が大きく関係しています。
具体的にどのような知識が不足しているのでしょうか?
例えば、月経や排卵、閉経の基本的な仕組みに加え、年齢とともに妊娠率が変化することについて、十分に知られていないことが多いです。
日本では、こうした妊娠に関する知識を学べる機会が少なく、正しい情報に触れる機会が限られているのが現状です。
卵子は一度老化すると
戻らない


早期検査に2〜3万円かけるか
将来の治療にコストをかけるか
年齢とともに妊娠率が変化するということについて、詳しく教えてください。
女性の卵子の数は、母親の胎内にいる胎児の時が最も多く、約数百万個あります。生まれるときにはその約10分の1に減少し、月経が始まると1回に約1000個ずつ減っていきます。
さらに、加齢とともに卵子の質も低下します。私も卵子や精子の老化について研究をしていますが卵子は一度老化すると元には戻らず、また減った卵子が増えることもありません。
また、加齢と共に卵子の染色体異常の割合も増えていきます。不妊治療において、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)という検査を行うことがあります。
これは、受精卵の染色体の状態を調べる検査ですが、検査結果をみると加齢とともに正常な受精卵の割合は減ることがわかります。
つまり、加齢と共に卵子の数や質が低下し、染色体異常のリスクも高まるということです。その結果、妊娠率が下がったり、流産率が上がる傾向があります。

年齢と卵子の関係性については知っておく必要がありそうですね。
そうですね。あとは、35歳以上の出産は「高齢出産」とされ、リスクが高まることが知られています。
卵子の加齢だけでなく、身体全体の機能も年齢とともに変化しますよね。
妊娠中の糖尿病や高血圧のリスクは、高齢出産では高くなることがわかっています。
こうした知識を持っておくことで、自分にとって最適なライフプランや選択肢を考えることができるようになりそうですね。
そうですね。自分の人生や将来のことを考える機会が少ない方もいるかもしれませんが、ぜひ一度、漠然とした知識ではなく正しい知識をもとに、自分の人生の設計図を考えてみてほしいですね。
基礎体温をつける
ことを習慣に


基礎体温をつけることを習慣に
プレコンセプションケアに取り組む上で、「正しい知識を持つ」ことが大前提だと思いますが、具体的に自分で始められる行動はありますか?
女性の場合、月経が始まったときからプレコンセプションケアを意識することが大切です。
まず、自身の身体の状態を知るためにも、「基礎体温をつける」習慣を身につけることをおすすめします。基礎体温がバラバラだと、卵巣機能に何らかの異常がある場合もあります。
また、基礎体温を記録することで、自分の月経周期に意識が向くようになり、周期の乱れにも気づきやすくなりますよね。
実際に、患者様の中には「半年間月経が来ていない」という状態を放置している方がいらっしゃいますが、検査をしてみると疾患が見つかることも多いです。

他に日々の生活習慣の中で気をつけるべきことはありますか?
肥満や過度の痩せすぎには注意してほしいです。最近では、モデル体型に憧れて無理に体重を落とそうとする人がいますよね。
また、本来は治療目的で使用される医薬品を、健康ではなく美容目的で使用する人もいます。これは健康の観点からも、辞めるべきです。
急激な体重の減少は無月経につながることがあり、治療が難しくなる場合もあります。結果的に不妊の原因になることもあるので、適正体重を維持することが大切です。
どれくらいが適正体重になりますか?
私は「身長-100×0.9」と伝えています。これは、一つの基準ですが、極端な体重の増減を避けることがとても大事になります。
不妊治療の現場で
後悔の声を聞いて
思うこと


不妊治療の現場で
後悔の声を聞いて思うこと
患者様から「もっと早くに知っていればよかった」「もっと早くに始めていれば良かった」という声をいただくことはありますか?
はい、そのような声をいただくこともあります。そういった患者様の中には「昔私がこうしていたからダメだったんだ」という後悔のような、諦めのような気持ちを抱えている方もいらっしゃる印象を受けますね。
そうした姿を見ると、やはり教育・正しい知識を早い段階で伝えていくことの重要性を改めて感じます。
学校のカリキュラムにしっかりと組み込むべきだと思いますし、親も正しい知識を伝えられるようになることが大切だと思います。
「なんとかなるよ」と楽観視するのではダメなんですよね。どこかのタイミングでしっかりと伝える機会を持つことが必要だと考えています。
やはり正しい知識の普及、教育の在り方が変わっていくことが大切ですよね。
そうですね。少子化の問題に焦点が当たりがちですが、そもそも女性も男性も、それぞれが豊かな人生を送るために、個々人の健康に目を向けた教育が重要だと思います。
その中には生殖に関する知識も含まれるべきですし、そうした教育にもっと投資していくべきだと感じます。






PROFILE
田中温
セントマザー産婦人科医院 院長
順天堂大学・大学院卒業後、順天堂大学医学部に入局する。
その後、越谷市立病院産婦人科院長を務め、1990年に日本初の不妊治療専門クリニック 「セントマザー産婦人科医院」 を開設。患者の治療に携わる傍ら、研究・実験を重ね、日本で初めて ギフト法(配偶子卵管内移植) を用いた体外受精による妊娠・出産を成功に導く。
その後も 無精子症治療、難治性高齢者不妊の治療 など多岐にわたる分野で成果を上げ、国内外で高い評価を得ている。その実績や評判から、全国から不妊治療を受けに患者が訪れる。
セントマザー産婦人科医院:
https://www.stmother.com/