

未来の
選択肢を残すために。
競技人生のその先に向けて、アスリートたちに
今、二人が知ってほしいこととは。

選手にとって
ベストなタイミングで
大内医師私がサポートしているチームでは、定期的にメディカルチェックをしています。その中で「将来の妊娠や出産に不安はありますか?」と訊くと、多くは「不安はない」と答えます。でも、実際には月経不順があったり、タイミングに悩んでいる選手もいるんです。
田中さん難しいですよね。私も10か月休んだらもう動けないかも……と不安になりました。でも、海外には出産後に復帰している選手もいらっしゃいますよね。
——選手たちが望むタイミングで、競技生活を続けながら妊娠・出産に臨めるようなサポートが大切
大内医師最近は、妊娠中から出産後までアスリートをサポートする体制も整いつつあります。個人の体調に合わせてトレーニングを続けたり、産後に無理なく再スタートできるように支援する施設も増えてきていますよ。
——大内医師は、キャリア形成の選択肢の一つとして「卵子凍結」についても言及する。
大内医師さらに、キャリアと両立を考える選択肢として「卵子凍結」という方法もあります。将来の妊娠を保証するものではないですが、選択肢の一つとして知っておくことで、心に余裕が生まれるかも知れません。
卵子凍結とは
将来の妊娠に備えて女性の卵子を採取・凍結保存する技術で、医学的理由やライフプランに応じて利用されます。


妊娠リスクで
後悔しないために
大内医師妊活外来には、BMIが低く、過去に無月経を経験した方も多く見られます。若い頃の過度なダイエットやトレーニングが、妊娠を難しくする要因となることもあります。また、妊娠や授乳中には骨量が一時的に減るため、無月経が長かった方は疲労骨折のリスクも高まります。
また、強い月経痛や体調不良を我慢している選手には、子宮内膜症など妊娠に影響する疾患が隠れている場合も。放置せず、気軽に婦人科に相談してほしいです。低用量ピルなどのホルモン療法で症状が軽減することも少なくありません。

——「そろそろ妊娠を」と考えたときに手遅れにならないために
田中さん正直私自身も現役時代は、将来の妊娠や出産というところまでは、考えられていなかったですね。
それよりも「結果を出すには今何をどうするのかいいか。」という意識の方が強かったです。私の周りでも、無理をした結果、疲労骨折や大きな怪我をしてしまい、引退してしまった選手もいました。

——「頑張り方」を間違えると、今や将来の自分の可能性を狭めてしまうことに繋がるのかもしれない。
大内医師妊娠は人それぞれの選択ですが、30代半ば以降になると妊娠しにくくなるケースも。今の自分を大切にしつつ、未来の選択肢を残すためにも、正しい「頑張り方」を知っていてほしいと思います。
知ってほしい、
妊娠と栄養のこと
大内医師妊娠を考え始めた時には、ぜひ栄養面にも意識を向けていただきたいですね。アスリートの方だけではなく、妊娠を考える女性に摂取を勧める栄養素の一つに「葉酸」があります。
特に葉酸を摂取したい期間は、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までです。厚生労働省は、妊娠を計画している女性は赤ちゃんの神経管閉鎖障害の発症リスクを低減するため、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、葉酸をはじめその他のビタミンなどを多く含む栄養のバランスがとれた食事が必要であると勧告しています。
※参考:神経管閉鎖障害:葉酸摂取による予防(厚生労働省、2018年1月)

田中さん私も病院で、ビタミンや鉄分も大事って言われて、バランスの良いサプリを選ぶようにしました。葉酸だけじゃ足りないんですね。
大内医師そうなんです。葉酸はビタミンB群と一緒に摂ると吸収が良くなりますし、妊娠中は貧血防止のために鉄分も必要です。
さらに、骨量低下を防ぐためにはカルシウムと、それを助けるビタミンDも重要。実際、外来の検査では半分以上の方がビタミンD不足なんですよ。ビタミンDは妊娠力にも関わるので、意識して摂ってほしいですね。

田中さんつわり中なんて、食べること自体が大変で……。体操より栄養管理の方が難しかったかもしれないです。サプリも「葉酸って書いてあるからこれでいいや」って選びがちですよね。
大内医師分かります。でも一口に「葉酸サプリ」と言っても、含まれているビタミンの種類や鉄、亜鉛の有無は商品によって違うので注意が必要です。ぜひ成分をしっかり見て選んでくださいね。

キャリアと妊娠、
どちらの夢も大切に
大内医師スポーツドクターとしては、選手たちが本来の力を出し切れるよう、全力でサポートしたいと思っています。そして、生殖医療の専門医としては、彼女たちが妊娠を望んだ時、その夢も叶えられるように支えたい。
でも、これは別々の話ではないんです。競技で最高のパフォーマンスを発揮するための体づくりが、そのまま将来の妊娠や健康に繋がっています。そして、妊娠を考えたときには、ぜひ葉酸のことも思い出してほしいですね。
田中さん夢を叶えたら終わり、じゃない。競技人生の後にも長い人生が続いていきます。だからこそ、自分の身体をきちんと知って、大切にして、どちらも思い切り楽しんでほしい。ぜひ、今からでもできることを始めてみてほしいです。
PROFILE


元体操日本代表
田中 理恵
1987年6月11日生まれ、和歌山県出身。6歳から体操を始め、現役時代は日本代表として数々の世界大会に出場。2013年に現役引退後、キャスターやタレントとして様々なメディアに出演。
私生活では2023年5月に第二子を出産した二児のママ。
医師
大内 久美
亀田総合病院にて産婦人科医として従事した後、生殖医療科へ。亀田メディカルセンタースポーツ医学科に「女性アスリート外来」を開設し、現在では女子サッカークラブチーム専属ドクターとしても活躍。

