
将来子どもを望む?望まない?
悩んでいるあなたと
考えたい向き合い方
亀田総合病院 生殖医療専門医
大内久美医師



BELTA
と
不妊治療専門医
大内先生と
対談させていただきました!
不妊治療やアスリート外来で多くの若い女性たちと向き合ってきた大内先生。
「子どもが欲しいかどうか、まだ決められない」
そんな思いを抱えている方に向けて、″自分自身の気持ちとの向き合い方″や″迷っている今だからこそできる大切な一歩″についてお話しました。


プレコンセプションケアに対する
専門医の想い
妊娠の
タイムリミットを
考える


妊娠のタイムリミットを考える
近年、年齢と共に妊娠がしづらくなるという認識が広まってきました。同時に”タイムリミット”として焦ってしまう方も少なくないかと思います。タイムリミットをどのように受け止めていけばいいのでしょうか?
妊娠を希望する/しない、どちらの選択が正しいというわけではなく、一人ひとりに正解があります。ただ、いざ将来妊娠を希望したときに「もっと早く知っておけばよかった」「知っていれば違う選択をしていたかもしれない」と後悔するような状況は防ぎたいと思っています。
まさしくプレコンセプションケアの考え方ですね。
※プレコンセプションケア:プレコンセプションケアとは、「妊娠前の女性やカップルへ医学や社会的な保健介入を行うこと」として、2012年に世界保健機構(WHO)が定義した考え方のこと。
そうですね。誰でもその時々によって「何を優先するか」「今何を選ぼう」という選択を重ねていきますよね。どうしても目の前の一生懸命なことを優先することが多いと思うんです。例えば、もし妊娠を望んでいても仕事との両立を考えると、すぐには妊娠を希望することが難しかったり、将来的に子どもを望んでいてもまだパートナーに出会えていないという方もいらっしゃると思います。
そういったときは、一度人生全体の「自分の優先順位」を考えてみることが重要かと思います。
自分の人生を長いスパンで見ることで、将来も含めて今どのような選択をするか、未来にどのような選択肢を残したいか、見えてくるかもしれません。
なるほど……!今も未来も自分の選択肢を諦めないためにも重要な考えですね。

将来妊娠を望むのであれば、やはり自分の“年齢”と妊娠の関係が気になります。実際はどのような関係があるのでしょうか?
加齢と妊娠には深い関係があります。女性の場合は、年齢が高くなってくるとどうしても卵巣の質と量の余力が下がり、妊孕性※が低下します。
※妊孕性:妊娠するための力
実際にはどのくらい低下するのでしょうか?
あくまでも一つの目安ですが、2015年に発表されたオランダの研究では、希望する子どもの人数と年齢の関係を算出した結果が出ています。
一人の子どもを望む場合、90%の確率で叶えるためには32歳までに妊活をすると良いとされています。他の不妊治療法と比べて妊娠確率が高いとされる体外受精を行う場合でも、妊娠可能確率は35歳までの治療で90%、42歳では50%と変化することが報告されています。
人数ごとに確率が出ていると、自分の人生を考える際にもとてもイメージしやすいですね!

今も未来も
楽になる体のケア


今も未来も楽になる体のケア
将来、妊娠を希望するかしないか、迷っている今だからこそできることはありますか?
ありますね。何よりもまず、健康状態を整えることが大切です。いざ妊娠を希望した際に、病院を受診をしても、すぐには治療に入れないケースがあります。例えば、高血圧や糖尿病を持っている場合、妊娠中の合併症リスクが高いため、先にそれらの治療をしなければいけないので、事前に健康な状態でいることが重要ですね。
将来的に妊娠を希望しなかったとしても、健康な自分でいられるのはいいですね。
健康を守る
ワクチン


健康を守るワクチン
ワクチン接種も、重要なケアの一つです。特に、妊娠後の感染が胎児の成長に影響を及ぼす風疹・麻疹(はしか)などは、ワクチン摂取後は妊娠まで2か月間空ける必要があります。
なるほど。未接種の場合、いざ「妊娠したい!」と思ったときに、すぐには妊活や妊娠のための治療に入れないんですね。
そうです。だからこそ、妊娠を希望される前に接種歴をご自身の母子手帳で確認し、未接種であればお近くの病院で接種しておくことをおすすめします。
ただ、妊娠を今すぐ希望しなかったり、妊娠を希望するか迷っている人にとっては、ワクチン接種はどうしてもハードルが高いように感じてしまいます。
妊娠のためだけでなく、今の自分にとってワクチンを接種すべき理由はありますでしょうか?
感染症は定期的に流行します。特に大人の″はしか※″などは重症化しやすい傾向にあります。ご自身と周りの人を守るためにも、感染予防としてワクチンの事前接種をおすすめします。
※はしか:妊娠中にはしかにかかると、流産や早産を起こす可能性があると報告されています。
″しんどい″を
我慢しない生理・PMS


″しんどい″を我慢しない生理・PMS
妊娠のためだけでなく、今のご自身をケアするという意味でもできることはたくさんあります。
例えば、月経痛や月経前の体調不良(PMS)を「仕方ないもの」「我慢するもの」として毎月我慢されている方も少なくないかと思います。こういった症状は、子宮内膜症などの疾患が隠れていることもあります。適切に対処することで楽になることが多いです。
今の痛みや辛さを改善することは、将来の妊娠にも関係があるのでしょうか?
大きく関係します。強い月経痛を伴う子宮内膜症は、卵巣や卵管の癒着を引き起こし、卵巣機能の低下等を引き起こし、不妊の原因になることがあります。卵管の機能に影響を及ぼすクラミジアなどの感染症は、自覚症状がないことも多いです。
早く治療をしていれば妊娠に不利な状況になることを避けられたかもしれない、と感じることもありますね。
自覚症状がないこともあるんですね……
そうなんです。月経痛やPMSなどの症状がなかったとしても、一度婦人科で検査することをおすすめします。
迷っている今こそ知りたい
婦人科受診の
タイミング


迷っている今こそ知りたい
婦人科受診のタイミング
妊娠を将来希望するかどうか迷っている時だからこそ、婦人科を受診したり、ワクチンを接種することの重要性がとてもよくわかりました。
ただ、あまりにも生理痛やPMSが身近過ぎて、婦人科にかかるべきか判断に悩む方もいらっしゃるかと思います。婦人科受診の目安などはありますか?
「どのくらい辛かったら受診してもいいんだろう」「何錠鎮痛剤を飲んでいたら病院に行くべきだろう」と悩まれる方もいらっしゃるのですが、自分が″辛い″って思ったら相談に来てほしいです。気軽に相談してほしい…!と常に思っています。
気軽に相談してもいいんですね…!
もちろんです。婦人科は何か大きなトラブルがあったときだけに受診する場所ではなく、日ごろから気軽に相談できる存在であってほしいなと思います。ご自身の痛みやしんどさを抱え込まなくていいんですよ。ただ、相談だけの受診に関しては保険適用外であることも多いので、事前にご確認ください。
あまり気負わずに、受診・相談するためにも、婦人科受診の際にはどのように相談すればいいでしょうか?
とりあえずどんなことでもいいので、ご自身の″今何が困っているか″を教えてもらいたいです。そこから、困っていることを改善するためにどういうアプローチができるか、を一緒に考えていければと思います。
ただ、いざ受診となると緊張してしまって、本当は伝えたかったこと・聞きたかったことが伝えられなかったという方も少なくないと思います。そんなときは、心配なことや相談したいことを事前にメモに書いて持参するのも一つの手ですね。

将来子どもを望む・望まないに関わらず、一度婦人科にかかり検査することが大切ですね。
改めて、妊娠を望むかどうか悩んでいる人に向けてメッセージはありますか?
ワクチン接種や婦人科受診、プレコンセプションケアを含む体調管理は、未来の妊娠のためだけではありません。今抱えている痛みや辛さの改善もできます。我慢するしかないと思わずに、今の自分を大切にするためにも気軽に婦人科に相談してみてください。
また、繰り返しにはなりますが、子どもを持つ選択も持たない選択も本当に個人の自由で、何よりも本人が納得して選ぶことが大切です。
ただ、いざ妊娠を望んだ時に「もっと早く知っていればよかった」と後悔してほしくはありません。事前に正しい知識を身に着けること、そして人生を長い目で見たときにご自身が「どうしたいか」を大切にしてほしいです。






PROFILE
大内久美
亀田総合病院 生殖医療専門医
亀田総合病院にて産婦人科医として従事した後、生殖医療科へ。亀田メディカルセンタースポーツ医学科に「女性アスリート外来」を開設し、現在では女子サッカークラブチーム専属ドクターとしても活躍。
執筆論文
1)不全中隔子宮に対して腹腔鏡下に子宮鏡下中隔切除術を施行した5例
日本受精着床学会雑誌(0914-6776)41巻2号 Page315-321(2024.09)
2)女性アスリートの今とこれからを支える 女性アスリートの低用量ピル活用法 本来のパフォーマンスを発揮するために
体育の科学(0039-8985)69巻8号 Page603-608(2019.08)