肩こり、冷え性、
イライラ。
たった10分の入浴で
改善できます

なんだか疲れが取れない。
腰や肩の痛みが強くなっている気がする。
やる気が出なくて憂鬱。
そんなお悩みはありませんか?

もしかしたら度重なる不調は、
閉経に伴う女性ホルモンの減少が
原因かもしれません。
人生の折り返し地点を迎えつつある
ミドルエイジの「変わりめ期」。
薬や病院を頼らずに我慢してしまうあなたに
おすすめしたいのが
「毎日のおうちお風呂」です。

本コラムでは、
医学博士で温泉療法専門医として知られる
早坂信哉先生に、
心身の不調に効く入浴法を
ご紹介いただきます。
ご自身でできるちょっとした工夫で、
つらい症状を和らげましょう。

その不調、
「変わりめ期」のサインかも

45〜59歳の女性約1,000名に実施したアンケート調査によると、なんらかの心身の不調を感じている女性の割合は90.1%にも達しました。半数以上がつらい肩こりや腰痛を抱え、「疲れやすい」「寝つきが悪い、睡眠の質が悪い」「ストレスがたまっている」「やる気がでない」「冷えやすい」などの症状に悩まされています。(※株式会社BELTA調べ)

これらの症状は、女性特有の「変わりめ期(更年期)」によって引き起こされると考えられています。閉経前後の不調には、のぼせや動悸、めまいなどのイメージが強いかもしれません。

しかし、肩こり、腰や背中の痛み、不眠や情緒不安定、冷えなどもこの時期に表れやすい症状なのです。

原因は女性ホルモン減少に
よる自律神経の乱れ

「変わりめ期」の不調はどうして起こってしまうのでしょう。

主な原因は女性ホルモンの減少です。閉経が迫ると卵巣機能は低下し、女性ホルモンの分泌量は増減を繰り返しつつ減っていきます。そのため心と体のバランスが乱れやすくなるのです。

また、そもそも女性ホルモンは脳の指示によって分泌されます。その司令部である視床下部は自律神経をコントロールする機能も持っています。脳は勝手に減っていく女性ホルモンをなんとか回復させようと視床下部をフル稼働させるため、また、女性ホルモンの変化そのものによっても自律神経も大きく影響を受けてしまうのです。

自律神経には、アクセル役の交感神経とブレーキ役の副交感神経があります。日中は交感神経優位のオンモード、副交感神経のリラックスモードに切り替わっていくのが自然のリズムです。

このリズムが乱れると、環境に合わせた血圧、心拍、体温、発汗などのコントロールができなくなります。例えば肩こりは、女性ホルモンの低下から自律神経が乱れ、血流が悪くなり体が冷え、筋肉が固まりやすくなって悪化すると考えられます。特に交感神経が興奮しすぎる状態が続くことが原因となって、体調に不調をきたすことが多くなります。

仕方ないと諦めないで。
鍵はお風呂にあり

「原因はわかったけど、症状の解消には通院やお薬が必要なんでしょう?」

「不調だけでもしんどいのに、改善のためにやることが増えるのは……」

そんなあなたにぴったりなケアが自宅のお風呂を使った入浴です。これからお話しする入浴法で「変わりめ期」の不調はケアできます。

自律神経を整える方法はヨガや太極拳などたくさんありますが、習得するまでに時間も費用もかかります。

一方、お風呂は上手に入るだけで興奮しすぎた交感神経を抑え、副交感神経が優位になり、リラックスモードになるのです。浴槽を毎日使うだけで、つらい不調を我慢する必要がなくなると聞くと、一度試してみたいと思いませんか?

入浴は最高の疲労回復法、
基本は40℃で全身浴

基本の入浴法は「40℃で10分、全身浴」です。42℃以上だと交感神経が刺激されリラックスできません。体を適度に温め、血流改善が期待できる10分間の入浴がベストです。

半身浴ではなく全身浴なのもポイント。全身がつかるお湯の浮力には、筋肉の緊張を緩める効果があります。また水圧も高まるので下半身のむくみにも効きます。

強い疲労を感じる場合に試してほしいのが温冷交代浴。これは「40℃のお湯に3分間つかったあと、30℃の冷たいシャワーを1分間あてる」入浴法です。血管をお湯で広げて、水で収縮させ血流を促進し、必要な栄養分を体の隅々まで届けます。

冷たいかけ湯に慣れるまでは、手足など末端からのシャワーでOK。最後は温かい入浴で終えましょう。

症状別入浴法

肩こり・腰痛にはたっぷりのお湯で

筋肉の緊張をほぐし血流を促す入浴は、肩こりや腰痛を和らげます。たっぷりのお湯で肩全体までつかりましょう。お湯が多いとその分、浮力も大きくなるので腰への負荷も軽減されます。

もしできそうなら入浴中にストレッチしてみましょう。浴槽の縁をつかんで左右にゆっくりひねる、頭を左右に倒し首を伸ばす。簡単な動きですが、温まっているので凝り固まった筋肉をじわっと伸ばせます。

冷え症にはあえての38℃?!

冷えが気になる方ほど、熱いお湯に入りたいと思いますよね。しかし冷え性改善には38〜40℃のややぬるめの温度での入浴が最適。お風呂あがりの体の温かさは、42℃以上の熱いお湯よりもぬるい温度のお湯の方が持続します。

冷え性体質の改善には、手足だけの温冷交代浴が◎。手足の血管の拡張と収縮を訓練できます。

マインド“フロ”ネスでストレス解消

「変わりめ期」では体の不調だけでなく、心の不調も表れやすいです。原因もないのにイライラする、憂鬱な気分になるといったときには、お風呂に入って瞑想しましょう。

瞑想は「今、この瞬間」に集中し、ストレスを解消するマインドフルネスと呼ばれる手法のひとつです。私はお風呂での瞑想を「マインド“フロ”ネス」と名付けています。

「マインド“フロ”ネス」はとても簡単で、浴槽につかりながら深い腹式呼吸を10〜20回ほど繰り返すだけ。3秒かけて鼻から吸い、5秒かけて口から吐き出します。湯気が鼻やのどを潤し、水圧もかかっているので呼吸筋も自然と鍛えられます。

頑張ってきた自分を
温泉で労って

肩こり・腰痛にはたっぷりのお湯で

ここまで自宅のお風呂でできる入浴法のコツをご紹介してきましたが、「日常生活のやるべきことに追われて、家ではうまく休めない」という方もいらっしゃるかもしれません。

特に「変わりめ期」を迎える世代は、頑張ることが前提の社会で、つらくても我慢する生き方が身に染み付いている傾向が強い、といわれています。現在も仕事や家事、子育てや介護など気が抜けない状況にある方も多いでしょう。「うまく休めない」という感覚は、頑張り続けてきたからこそ。

そんなミドルエイジ世代におすすめなのは、温泉旅行です。

温泉では温泉成分によって、水道水よりも体が温まりやすく、より高い保温効果が得られます。また「転地効果」も見逃せません。転地効果とは、普段の生活空間とは異なる環境に身を置くことで、ストレスを和らげ自律神経のバランスを整える作用のこと。頑張ってきたご自身の体を温泉でじっくり労わりましょう。

日々の疲れには
薬湯や入浴剤がおすすめ

頻繁に温泉には行けなくても、疲労をこまめに取ってリフレッシュすることは「変わりめ期」の心身不調にとても効果的です。自宅のお風呂を温泉のように感じられる手軽な方法としては、薬湯や入浴剤がおすすめできます。

薬湯とは薬効の高い植物やハーブを用いた入浴法です。「菖蒲湯」や「柚子湯」など、昔ながらの季節行事とともに現代でも楽しまれていますね。皮膚に異常がないか確認しながら、生姜やみかんの皮、よもぎなど身近なものを日常的に使ってもいいでしょう。

入浴剤は非常に多くの種類が発売されており、毎日の気分に合わせて選べるのがうれしいポイント。成分がしっかりと明記されている入浴剤を選び、お気に入りを少しずつ増やしておくと、疲れた日の入浴もおっくうにならずに楽しめます。

「変わりめ期」をしなやかに乗り越えるために使える「毎日のおうちお風呂」。ぜひ取り入れてみてください。

【教えていただいた方】

早坂信哉さん
温泉療法専門医・医学博士

東京都市大学人間科学部学部長・教授。 20年にわたり3万人以上の入浴を調査。お風呂や温泉の医学的研究の第一人者。著書に『おうち時間を快適に過ごす 入浴は究極の疲労回復術』(山と溪谷社)など