妊娠中の薬・サプリとの上手なつき合い方

妊娠中

妊娠・授乳期に薬の使用を避ける妊婦さんが多いけれど、実際は多くの薬が使えます。

妊娠初期は注意が必要、中期以降は多くの薬が服用可

体温計と服薬のイメージ

妊娠・授乳期のお薬の使用を躊躇(ちゅうちょ)する方が日本では数多く見受けられます。これは、随分以前に大量発生した妊娠悪阻(おそ)の薬であったサリドマイドによる赤ちゃんのアザラシ肢症(ししょう)の印象が強いことと、たいていの薬の添付文書(説明書)に「妊婦、産婦、授乳婦等への投与:妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又または妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与すること」と記載されているためです。妊婦、産婦、授乳婦を対象とした臨床研究で安全性が証明されない限り、添付文書にはこの制約が付きます。

しかし、妊婦、産婦、授乳婦を対象とした臨床試験は参加者を集めることは我が国では極めて困難で、しかもこの研究は生まれた赤ちゃんが大きくなるまでフォローアップして安全性を確認しなければならず、膨大な費用がかかるため、製薬会社は妊婦、産婦、授乳婦への臨床研究を躊躇(ちゅうちょ)します。また、動物実験で乳汁中に薬の成分が検出されれば、「授乳を中止すること」と記載されます。

では、妊婦、産婦、授乳婦はお薬を服用してはいけないのでしょうか? 実は妊娠期・授乳期で絶対に服用してはいけない薬は少なく、実際には多くの薬が使用可能です。担当の産科の先生が処方した薬は安全に服用できます。産科以外の先生に処方してもらうときは、妊娠あるいは授乳期であることを必ず申し出てください。

ただし、妊娠初期から13〜14週まではおなかの赤ちゃんの臓器が形成される時期なので、薬だけではなく環境要因も胎児形態異常に関与する可能性があります。いずれにせよ、この時期は必要不可欠な薬以外はあえて服用することは避けたほうがいいでしょう。

持病がある場合、医師としっかり相談を

母体が良好な状態でなければ、おなかの赤ちゃんは元気には育ちません。母体が持病を抱えている多くの場合は、薬を使用していることでしょう。膠原病(こうげんびょう)、喘息(ぜんそく)、心疾患(しんしっかん)、高血圧、精神疾患、臓器移植後などでは、おなかの赤ちゃんに影響のある薬であっても服用を中止することはできません。

このような場合に重要なことは、妊婦・持病の主治医(かかりつけ医)・産科担当医との良好なコミュニケーションを取ることです。かかりつけ医と産科医は、妊娠前から妊娠の可否を評価し、持病を妊娠可能な状態に管理し、妊娠・分娩(ぶんべん)・産後に起こりうる母児のリスクを妊婦ならびに家族に十分に説明し、了解が得られてから妊娠に向かわなければいけません。この場合にも妊娠に備えての薬の減量あるいは適正量についても話し合っておくことが大切です。妊娠中、分娩(ぶんべん)前後、育児期にも、かかりつけ医とのコミュニケーションをさらに密にすることが重要です。

妊娠前に使用していた薬については、処方した先生に相談し、服用の中止あるいは減量、継続について検討してください。自己判断で中止しては絶対にいけません。特に、精神疾患の薬については精神科医が妊娠について熟知していないことが多く、必要な薬を中止してしまうことがあるため産科医とも相談してから薬の使用法・使用量を決めてください。

妊娠に気づかず服用していた場合にも、処方医だけではなく産科医とも相談してください。判断に困った場合には、先述の国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」を利用することをおすすめします。

妊娠初期は、葉酸が有効

数あるサプリメントの中で、妊娠中に有用というエビデンスがあるのは葉酸だけです。妊娠初期に服用することで無脳児あるいは二分脊椎(にぶんせきつい)の発症を減少させることが知られています。

しかし葉酸が有用な時期は極めて妊娠初期に限定されているので、妊娠が判明してからでは効果は期待できません。妊娠を希望する時点から葉酸を開始することが大切です。北米では法律ですべての穀類に葉酸が添加されていますが、我が国ではそうではないので妊娠前から葉酸を服用することをおすすめします。

特に、抗癲癇薬(こうてんかんやく)を服用し、妊娠を希望する場合は葉酸は不可欠です。いつ葉酸の服用を中止すればいいのかとの質問を受けますが、妊娠初期のみ有効なので、いつ中止してもかまいません。

その他のサプリメントについての妊娠・胎児への効果は明らかではないので、あえて服用する必要はありません。特に、ビタミンAの大量摂取は胎児への悪影響が報告されているので服用は控ひかえてください。鉄剤、カルシウム、エイコサペンタエン酸(EPA)などには有用な可能性があるので、担当の産科医と相談のうえ服用してください。

自己判断で服薬を停止せず、産科医と相談して上手に薬や症状とつき合っていきましょう。国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」に相談すれば、詳細な情報を提供してくれるはずです。このホームページには、妊娠中あるいは授乳中に使用できる薬についても掲載があるので、参考にしてください。この他に、産科医は臨床治験にもとづく海外のデータベース(Motheriskなど)を参考にしています。

久保隆彦先生
医療法人社団 シロタクリニック 代田産婦人科 名誉院長

岡山大学医学部卒業。資格・所属:日本産科婦人科学会 専門医、日本産科婦人科学会 周産期委員会委員、日本産科婦人科学会 用語集・用語解説集編集委員、日本周産期・新生児医学会 評議員、日本周産期・新生児医学会 妊産褥婦の蘇生法WG委員、日本母体胎児医学会 幹事、日本産科麻酔学会 幹事、日本輸血・細胞治療学会 ガイドライン委員会委員、日本自己血輸血学会 評議員、新生児蘇生法インストラクター。

※出典:https://medical.jiji.com/doctor/2251

関連の妊娠中の記事