流産・死産・早産を乗り越えるために

妊娠中

他の人に言うのがつらい経験なので、体験談を聞く機会は少ないですが、妊娠が予期せぬ結果に転じることは、ある程度の確率で起こることです。

流産の確率と原因

お腹に手を当てる妊婦

流産や死産は他人に言いたくない経験なので、あまり「体験談」を聞くことがないと思います。でも、それぞれとても大変なことです。最初は「妊娠した」イコール「玉のような赤ちゃんを産んでだっこできる」、と思ったはずですから。残念ながら自然は残酷です。たくさんの悲しいできごとを繰り返しながら、今までヒトという生き物は連綿と命をつないできたのです。まず流産についてお話しします。

流産とは、妊娠22週未満で胎児が外に出てしまうことをいいます。この時期では生き延びることができないという意味で、「流れてしまった」といういい方をします。

流産のほとんどは胎児の問題です。流産率は女性の年齢に依存し、20〜30代前半では15%前後ですが、35歳で20%、40歳では35%、45歳では60%の妊娠が流産に終わります。

流産はあなたのせいではありません。何かをしたから流産になった、というのは迷信です。また、1回の流産では妊娠期間をあけても、すぐに妊娠しても、次の妊娠の流産率は変わりません。年齢が上がることを考えると早く次の妊娠に向かう方がいいと思います。なお、流産ばかり2回以上繰り返す場合を不育症と呼びます。

死産の兆候をつかむのは難しい

日本では12週以降の流産でも死産届を出しますが、WHO(世界保健機関)による死産の定義は「妊娠28週以降でお産したときに赤ちゃんの生きている証(あかし)がない場合」をいいます。医学的な原因の研究は妊娠20週以降などもう少し前の死産から行われてきました。

それによると、母体の要因としては、高血圧、糖尿病、感染症(トキソプラズマ、サイトメガロウイルス)、その他の基礎疾患(しっかん)(SLE、腎疾患(じんしっかん)、甲状腺)、喫煙、肥満、などが挙げられます。

胎児の要因では、多胎(たたい)妊娠、胎児発育不全、染色体異常、形態異常(先天奇形)、子宮内感染など。胎盤(たいばん)の問題では、前置血管、臍帯辺縁付着(さいたいへんえんふちゃく)、羊水過少、母児間輸血症候群などがあります。

ですが、診断がつかないことが多いです。胎動(たいどう)が少ないことが前兆のこともありますが、ほとんど気がつきません。前日の妊婦健診で胎児心拍モニターが正常でも起こることがあるのです。初期・中期に超音波で胎盤(たいばん)をよくみること、胎児発育と臍帯(さいたい)や胎児の血流モニターをしっかりやること、胎動(たいどう)減少を感じたときにはすぐに胎児心拍モニターすること、場合により早めに陣痛(じんつう)を誘発することなどが再発予防になるとされています。タバコと肥満は自分の努力でリスクを減らせるものです。

お母さんを目指す女性は、ぜひ禁煙と適切な体重コントロールをお願いします。ただし、残念ながらこうしたことを行っても、死産を完全に防げるものではありません。胎動(たいどう)を感じてからおなかの中で赤ちゃんが亡くなることはとても悲しいことですが、おそらく1000人に2人ぐらいの人に起こっています。このような悲しいことが起こったときにグリーフケアといって、ご両親の気持ちがやすらぐようなケアを心がけている施設が増えています。

早産はNICU(新生児集中治療室)がある病院で

早産とは、妊娠22週以降37週未満で赤ちゃんが生まれることを指します。さまざまな機能が未熟なので、特に35週未満ではNICUという赤ちゃんの専門治療施設で育てることが必要です。

妊娠高血圧症候群や子宮の異常、多胎(たたい)、羊水過多、子宮内感染等が原因になりますが、原因がわからないものもあります。日本では5%程度が早産になります。早い週数では、生まれてから赤ちゃんを運ぶより、お母さんにNICUのある病院に行ってもらうほうが安全なので、NICUのない施設で生まれそうなときは急いで搬送します。

早く生まれた子どもは、脳性麻痺や視力障害などの後遺症がでやすいので、塩酸リトドリンなどで妊娠期間の延長を図り、ステロイドを母体に打って赤ちゃんの肺成熟を促(うなが)します。硫酸(りゅうさん)マグネシウムというお薬の短時間投与が脳性麻痺を減らす可能性があるといわれています。

早産を1回すると次の妊娠のときの早産率が15%、早産が2回続くと3回目の妊娠では30%が早産します。1年以内に妊娠するとこの確率がさらに倍ぐらい上がるので、早産したら次の妊娠を待ってください。早産の経験がある女性に合成プロゲステロンを注射すると次の早産率が下がるという研究があり日本でも一部施設で行われています。また、超音波で子宮頸管(けいかん)の長さを測ることで早産のリスクをみよう、という動きもあります。

大変な経験を乗り越えるために(for men)

流産や死産はとても悲しい経験で、ふたりで悲しみを分かち合うことが大切です。グリーフケアという心のケアを助産師や看護師、医師たちが各施設で工夫しています。流産はとても多いもので、女性が自分を責める必要がまったくないことをよく理解することも大切です。

死産や早産は注意深い診察で次の発生率を下げることができます(もちろん、ゼロにはできません)。ぜひ、このような状態にくわしい施設を次回は選んでください。早産では赤ちゃんだけが病院に残ることが多くなります。通院のときや、小さい赤ちゃんが家に帰るときには、パートナーの力添えがとても大切です。

木村正先生
大阪大学大学院 医学系研究科産科学婦人科学教室 教授

大阪大学医学部卒業。1985年より大阪大学とその関連病院で、産科・婦人科・生殖医療の経験を積み、2006年から現職に。2018年~2020年は医学部附属病院病院長を、2019年より公益社団法人日本産科婦人科学会理事長も務める。日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医、日本生殖医学会 生殖医療専門医、日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医・婦人科腫瘍指導医、日本周産期・新生児医学会 指導医の資格を持つ。

関連の妊娠中の記事