アスリートの健康問題について アスリートの健康問題について

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もう、
一人で抱え込まないで。

日々トレーニングや食事制限に励むアスリートと指導者に向けて、
今、二人が伝えたい想いとは。

田中理恵さんと大内医師

体を追い込み過ぎ、
血尿が……

田中さん高校3年間は体と向き合うのが難しい時期でした。14歳で初経が来たことや怪我で練習もできずで体が急成長したんです。女性らしく丸みを帯び、理想とは異なる自分の体型に困惑しました。体操では体重が0.5kg変わるだけでも、回転の感覚が違ってくるんです。

——急激な体の変化に焦り、食事を抜き練習をした。

田中さん食べ物も“重さ”で選んでいて、栄養が足りず、ぼーっとしながら練習をすることもありました。結局反動でお菓子を食べたり……自分が嫌いになり、精神的にも辛かったです。ついに何をしても痩せなくなって、大好きだった体操さえ嫌いになりそうでした。

——女性アスリート外来を受診する中高生も、食をネガティブに捉えていることが多いそう。

大内医師体重が軽いほど良い結果に繋がる…と、食に対して罪悪感を抱いている方も多いです。栄養指導を重ねて、ようやく「実は寝る前にアイスを食べた」と打ち明けてくれることがあります。

——食事制限により体を追い込み過ぎた結果……

田中さんある日、血尿が出たんです。病院に行ったら「身体がカスカスの状態になっている」と言われました。

田中理恵さんが質問に答える様子

周囲を頼ったところ、
良い成績が

田中さん保健体育教師の父が、「体操人生のその後の人生はもっと長い」と話してくれていました。体脂肪率や月経など健康を気遣ってくれていたのに、体重に取り憑かれていた私に父の言葉は聞こえていませんでした

——田中さんのような状態は決して珍しくないという。

大内医師選手は結果を出すため、その瞬間に一生懸命です。そうなると周囲の言葉が届かなくなってしまうんですよね。お父様のように声を掛けてくれる方が近くにいたことは、後の意識変化や、ご活躍に繋がったと思います。

微笑む田中理恵さん

田中さん意識が変わったのは、大学に入ってからです。監督から「体重よりまずは3食食べなさい」と言われました。衝撃でしたが、「3か月後の体づくりに必要」と言われ、しっかり食事を摂るようになりました。体重が増えたことで筋トレで筋肉がつきやすくなりました。

——意識が変わってから2年、結果がついてきた。

田中さんそこからの成長は大きかったです。「こんなにパワーが出てメンタルも落ち着くんだ」と分かってからトレーニングの質も変わっていき……結果的に成績も上がりました

大内医師国際オリンピック委員会もエネルギー不足がパフォーマンスと健康に悪影響を及ぼすと提唱しています。田中さんのような成功体験を得ることで、過度な食事制限やトレーニングが逆効果だということを身をもって理解できるようになるんですよね。

真剣な表情で語る大内医師

女性アスリートの
三主徴

大内医師女性アスリートが抱える健康問題として「女性アスリートの三主徴」とよばれる「利用可能エネルギー不足」「無月経」「骨粗しょう症」があります。

女性アスリートの三主徴

利用可能エネルギー不足
消費エネルギー>摂取エネルギーの状態。
食事量が極端に少ない、または過度なトレーニングにより消費エネルギーが大きく上回ってしまう場合に起こる。

無月経
エネルギー不足により体重が減少、排卵障害が起き、月経がない状態。
女性ホルモン“エストロゲン”の分泌が減少する。

骨粗しょう症
エネルギー不足や無月経により、骨密度が低下した状態。

こうした症状は、競技をする上で疲労骨折などのリスクに繋がるだけでなく、将来、妊娠や出産を考える際にも大きな問題となる可能性があります。

——こうした身体のサインに気づかず、我慢を続けてしまう選手は多い。

大内医師エネルギー不足で無月経になる選手もそうですが、一方で、エネルギー不足はなく月経はしっかり来ているけれど、ひどい月経痛といった月経困難症や、月経周期に伴う体調不良などについて「根性でのりきるしかない」と思い込んでいる選手もいます。そんな選手には正しい知識を伝えることが大切です。その上で私が診ているチームでは、「我慢しなくていいんだよ」というメッセージを伝えるようにしています。

手振りをつけて話す田中理恵さんと話を聞く大内医師

未来を拓く、
アスリートの体づくり

田中さん私の父や監督のような声掛けだけでも、本人の考え方は変わっていくと思います。オリンピックに、日本代表に、と願う気持ちは分かりますが、その先の人生を考えた指導や声掛けがあれば、きっと選手も前向きになり、一人で悩まずにいられると思います。

大内医師医療面でも、様々な専門家が連携して選手を支えていく必要があると感じています。中には相談にハードルを感じる選手もいるので、もっと気軽に話せる場を増やしていきたいです。

田中さん選手が一人で悩まないように、周囲がしっかりと支えられる環境を作っていきたいですね。周りと比べて焦りを感じることがあるかも知れませんが、そんな時こそこの話を思い出してもらい、少しでも気持ちを和らげてくれると嬉しいです。

選手だけじゃない、周りで支える人にも届けたい
“一人で” “根性で” 耐えるを
当たり前にしないで。

過度なトレーニングや食事制限で心身のバランスを崩してしまう選手たち。
元体操日本代表の田中理恵さんも辛い時期を経験したが、それを乗り越えられた背景には身体や将来を気遣う父や監督の存在があった。

「一人で不安を抱え、体づくりに向き合わなければいけない」そんな認識を変えるためには周囲の意識変革や相談できる環境整備が重要なのだろう。

選手の人生に責任や覚悟を持てているか、ぜひ一度問いかけてみてほしい。その言葉や指導が選手人生のその先を潰してしまっているかもしれない。

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PROFILE

田中理恵さんと大内医師 田中理恵さんと大内医師

元体操日本代表
田中 理恵

1987年6月11日生まれ、和歌山県出身。6歳から体操を始め、現役時代は日本代表として数々の世界大会に出場。2013年に現役引退後、キャスターやタレントとして様々なメディアに出演。
私生活では2023年5月に第二子を出産した二児のママ。

医師
大内 久美

亀田総合病院にて産婦人科医として従事した後、生殖医療科へ。亀田メディカルセンタースポーツ医学科に「女性アスリート外来」を開設し、現在では女子サッカークラブチーム専属ドクターとしても活躍。

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